酒席で語りたくなるキリンの話
動物園が近くにあり、時々通う間にキリンが好きになりました。
キリンについて調べると、奥が深く飽きることがありません。
あるとき、関東でよくみかけるキリンと、目の前にいるキリン(宮崎市フェニックス自然動物園)では、模様が異なることに気づきました。目の前のキリンはマサイキリン、関東でよく見かけるキリンはアミメキリンと判明しました。
キリンは1種(species; Giraffa camelopardalis)しか存在しないとされていました。2016年のナミビアの研究者Fennessyらの報告によるDNA遺伝子解析で、4つの種に分類されることがわかりました(Fennessy et al., 2016 Current Biology 26, 2543-2549)。著者のFennessyさんは、キリン保全財団(Giraffe Conservation Foundation; GCF)の代表も務めています。
この研究は、複数の遺伝子領域(multi-locus)を比較することで、キリンの集団間の遺伝的距離を調べたものです。その結果、長い期間交雑していない4つの遺伝的グループが存在することが示され、「1種」ではなく「4種」と考える方が進化史をより正確に表すと提案されました。
分類の方法
生物は、それがどのようなものであるかを分類する方法があります。
界(かい):動物、植物
門(もん):脊索動物、節足動物、被子植物
鋼(こう):哺乳類、鳥、昆虫
目(もく):食肉目、ツル目、鯨偶蹄目、ゾウ目
科(か) :ネコ科、ツル科、キリン科、ゾウ科、ウマ科
属(ぞく):ヒョウ属、キリン属、オカピ属、アジアゾウ属
種(しゅ):トラ、キリン(1種⇒4種へ)、オカピ
キリンに関しては、上記の太字に分類されます。キリンに最も近い生物はオカピと言われ、同じキリン科でオカピ属に属します。2016年の発表では、キリン属に分類されるキリンの種が、「1種」から「4種」の方が適切という論文です。
このような分類体系は、18世紀にスウェーデンの博物学者リンネによって体系化されました。現在では形態だけでなく、DNA解析などの分子生物学的な情報も重要な判断材料となっています。
2種11亜種(1904年)
1904年にLydekkerが提唱した分類は、2種11亜種です。この分類が長い期間利用されてきました。太字は学名です。
Netted giraffe Giraffa reticulata
Blotched giraffe Giraffa camelopardalis
Kilimanjaro giraffe G. c. tippelskirchi
Baringo giraffe G. c. rothschildi
Kordofan giraffe G. c. antiquorum
Nubian giraffe G. c. typica
Nigerian giraffe G. c. peralta
S. Lado giraffe G. c. cottoni
Congo giraffe G. c. congoensis
Angola giraffe G. c. angolensis
Cape giraffe G. c. capensis
N. Transvaal giraffe G. c. wardi
(Lydekker, Proc Zoo Soc Lond, 1904)
1種9亜種(1976年)
1976年にAnne Innis Daggの「Giraffe. Biology, behaviour and conservation」に記載されいる分類は、1種9亜種とされています。
Reticulated giraffe G. c. reticulata
Masai giraffe G. c. tippelskirchi
Rothschild’s giraffe G. c. rothschildi
Kordofan giraffe G. c. antiquorum
Nubian giraffe G. c. camelopardalis
Thornicroft’s giraffe G. c. thornicrofti
Nigerian or West African giraffe G. c. peralta
Angolan giraffe G. c. angolensis
Cape or Southern giraffe G. c. giraffa
この分類は長く教科書などでも採用されてきました。つまり比較的最近まで、キリンは基本的に1種で地域ごとに亜種がある動物と考えられていたことになります。
キリンは 4種7亜種に(2016年)
2016年のFennessyらの論文の中で提案されている分類は以下の通りです(数字は2020年の生息数)
キタキリン Northern giraffe (G. camelopardalis) 5600
コルドファンキリン Kordofan giraffe (G. c. antiquorum) 2000
ヌビアキリン Nubian giraffe (G. c camelopardalis) 3000
(1976年分類のThornicroft’s giraffeを含む)
ナイジェリアキリン Nigerian giraffe (または West African giraffe) (G. c. peralta) 600
アミメキリン Reticulated giraffe (G. reticulata) 15780
(1976年分類のRothschild’s giraffeを含む)
マサイキリン Masai giraffe (G. tippelskirchi) 35000
ミナミキリン Southern giraffe (G. giraffa) 54750
アンゴラキリン Angolan giraffe (G. g. angolensis) 17750
ケープキリン South African giraffe (G. g. giraffa) 37000
(生息数は Giraffe Conservation Foundation, 2020より引用)
生息数は、1985年の15万5000頭から2015年には9万7000頭に減少、その後2020年には保護活動の効果もあり11万1000頭に少しだけ回復しています。
2021年に発表されたキリンの全遺伝子解析の研究結果 [Coimbra, 2021]でも、上記の分類は支持されました。その中では、キタキリンとアミメキリン、マサイキリンとミナミキリンが遺伝子的に近い存在であることが示されています。模様もなんとなく、それぞれの2種は似ているような気がします。
宮崎市フェニックス自然動物園でのマサイキリン観察記録はこちら
👉 キリンの常同行動 ~舌で舐める~
👉 キリンのネッキング ~オス同士の戦い~
👉 キリンの「追尾行動」と「フレーメン反応」 ~繁殖のために~
「種」の分類とは
ここで登場する「種」とはどのような意味を持つのかということが気になりました。動物においては、「種とは遺伝する特有の形質(形態・生理・生態)と一定の地理的、生態的分布を示し、独自の進化を続けている集団であって、同種内では交配するが他種とは生殖的に隔離され、特有のゲノム(遺伝子)を有する分類の基礎単位である」(川原、1977)とされています。
生殖的隔離は野生の状態での条件ですので、本当に隔離されているのかの判断は困難な時も多いようです。遺伝的な適合・不適合については、遺伝子にどの程度の異差があれば種とされ、どの程度の異差なら亜種という明確な決まりはありませんので、種が異なるかどうかの決定的な判定は困難なときも生じます。
今回のキリンの「4種」については、地理的に分かれて生息している点と遺伝的に4つの全く異なる遺伝的なストーリーのある4グループと判断されたために、「1種」から「4種」と判定されました。
それぞれの種の生息地
生息地は、サハラ砂漠より南側のアフリカ大陸です。
キタキリンはアフリカの北側(ナイジェリア、南スーダン、エチオピア、中央アフリカ、二ジュール)に生息します。亜種のコルドファンキリンとヌビアキリンは内戦で生息地が脅かされてます(近絶滅種)。ナイジェリアキリンは政府の保護政策により生息数が増えました(危急種)。
アミメキリンはケニア、エチオピア、ソマリアに生息します。ケニアでの生息数は少ないですが安定しているという報告もあります。絶滅危惧種。
マサイキリンはケニア、タンザニア、ウガンダに生息します。30年前は生息数が最も多かったですが、その後ほぼ半数に減少しました。絶滅危惧種。
ミナミキリンは南側(ボツナワ、ナミビア、南アフリカ、ザンビア、ジンバブエ)に生息します。生息数は順調に増えていて、現在数か国で合法的な狩猟の対象となっています。低危険種。
保護状況:近絶滅種 > 絶滅危惧種 > 危急種 > 低危険種
キリンの模様の違い
模様については、4つの種でいくつかの特徴があります。ただ、家系によっても異なり地域によって、濃い薄いという違いもあります。アミメキリンとマサイキリンの模様が特に特徴的です。
キタキリンは、扇形の模様や、スジの入ったような少しムラのある模様です。模様はアミメキリンと比較してやや小さめで、模様同士の隙間はやや広く(首部分が特に広い)、模様の境界はややぼんやりしています。四肢の内側には模様が入らないことが多く、足は踵くらいまでの分布で、足の下部には模様がないことが特徴です。
アミメキリンは、台形や六角型のような比較的角ばった規則正しい斑紋が、模様の間隔が狭い一定のスペースで分布します。四肢の内側にも模様があり、かかとを少し超えた部分にも広がります。キレイな網目模様で、日本のぬいぐるみの大部分はこのアミメキリンの模様を採用しています。
マサイキリンは、不規則な星状とも蔦の葉状とも見える特徴的な斑紋が全身に見られます。キリン中で4種の中で最も大型で、体色が濃いです。
ミナミキリンは、キタキリンと類似していて扇形の模様や、スジの入ったような少しムラのある模様です。四肢の内側の模様はうっすらとのみで、足は踵より下まで分布します。
種が異なれば、野生の中では交配しないことが原則ですが、生息地域の変化で自然界の交配が生じるかもしれません。そうなると長い年月の間に「5種」目が生じるかもしれません。生命の進化なのかもしれないし、ヒトが繁栄しすぎた影響なのかもしれません。なんとなく自責の念を感じてしまいます。
参考
Fennessy et al. (2016) Multi-locus analyses reveal four Giraffe species instead of one. Current Biology 26, 2543-2549
Lydekker R. (1904) On the subspecies of Giraffa camelopardalis. Proc Zoo Soc Lond 74, 202-229.
Coimbra et al. (2021) Whole-genome analysis of giraffe supports four distinct species. Current Biology 31, 1-10
Giraffe Conservation FoundationのHP
ナショナルジオグラフィック 2019年10月,78-101
川原治之助. 鉱物学雑誌, 13, 84-90,1977
馬渡峻輔. 動物分類学30講. 2006
National Geographic, 2016
キリンの種の分類の話を調べていると、動物の模様や進化の歴史、さらには遺伝子解析の話まで広がっていきます。普段はただ動物園で眺めているだけのキリンにも、実は何百万年もの進化の物語が隠れています。
こうした自然史の話は、酒の席でも意外と盛り上がるものです。日本酒の話から発酵や生物の話に移り、やがて動物や進化の話へとつながることもあります。盃をきっかけに、文化や科学への思索がゆるやかに広がっていく――そんな時間もまた、お酒の楽しみの一つなのかもしれません。

