盃でほどく生きものの機微 ― キリンの追尾行動とフレーメン反応

酒縁の広がり

酒席では、相手との距離によって話題の選び方が少し変わります。差しさわりのない話から始まり、互いの関心が見えてくると、少し踏み込んだ内容へと移っていきます。生きものの繁殖に関わる話題は、その典型かもしれません。扱いを誤ると敬遠されがちですが、相手を見ながら丁寧に切り出せば、知的な興味を共有できる話題にもなります。

そんな折に思い出すのが、キリンの行動です。

先日、行きつけの宮崎市フェニックス自然動物園で、マサイキリンのトウマ(オス・4歳)とコユメ(メス・8歳)を観察していました。キリンに関心を持つようになってから、年間パスを購入し、折に触れて足を運んでいます。

観察していると、トウマがコユメの後ろをしきりに追う姿が目に入りました。さらに印象的だったのは、コユメの尿を舐める行動です。

追尾行動とは

追尾行動とはキリンのオスが”メスの発情”を確認するために、雌の後ろをついて歩き、お尻や尿のにおいを嗅いで、メスに発情期が来ているかを確認する行動です。トウマが、コユメを付け回している姿を何度か確認しましたが、これはコユメに発情期が来ているかどうかを確認しているようです。

ヒトの女性の月経周期は約28日です。これは体の中で起こっている排卵に伴う生理サイクルです。動物たちは、排卵する時期には発情兆候が見られ,その時期に交尾して効率よく妊娠します。キリンの排卵のサイクルは約2週間で、発情期は2週間の周期でやってきます。発情兆候が見られるのは排卵前のほんの1-2日ですが,オスはその時期を下記のフレーメン反応により、予測します。

フレーメン反応とは

フレーメン反応とは哺乳類に起こる生理現象のひとつで、臭いに反応して、頭を挙上、上唇を引き上げる、鼻孔を部分的に閉鎖する仕草のことをいいます。馬などが有名ですが、猫、犬、ラッコ、コウモリなどにも起こるといわれています。フレーメン反応をする理由は、生殖状態(発情期かどうか)を伝える物質、とくに空気よりも重い分子の空気を感知することです。

キリンにおけるフレーメン反応も、尿や外分泌腺などからの分泌物中に含まれる不揮発性の性フェロモンを鋤鼻器(じょびき)を介して副嗅覚系で感知する役割を持つとされています。鼻腔の下側に位置ししています。ヒトでは胎児期に鋤鼻器が観察できますが、すぐに退化してしまいます。

トウマを観察していますと、舐めた尿を、軽く口を開いて鼻に空気と一緒に流して、感知しているように見えました。

キリンの感覚の中で、最もよく発達しているのは視覚と言われています。その視覚のおかげで遠くの敵・仲間を発見することができます。聴覚、臭覚も同様に発達しているといわれております。フェロモンを感知する能力も高いのかもしれません。

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キリンの繁殖

繁殖期は、通年でどの時期に繁殖しやすいということはないようです。メスは生後5年で最初の妊娠可能年齢に達します。妊娠期間は約15か月で、1回に1頭のみ出産します。ヒトの妊娠期間の10か月、ウマの11か月よりも長めです。平均の出産間隔は20か月とされ、繁殖可能な最高齢はメスで約20歳までで、平均の出産数はメス1頭当たり6頭程度と推測されています。

オスは生後42か月で性的に成熟しますが、野生では強いオスのみが交尾の機会を得られるために、8歳以上にならないと交尾の機会はないといわれています。飼育下で繁殖を阻害する優位なオスが存在しなければ、繁殖開始年齢の低年齢化現象が起きると考えられています。

トウマは4歳にしてお父さんになりましたが、気持ちはまだまだ子供なのかもしれません。今回トウマとコユメで観察された追尾行動とフレーメン反応により、遠くない将来にコナツの兄弟の誕生が期待できるのかもしれない、と勝手に喜んでいます。ちなみにオスの繁殖可能な最高齢は、23歳まで(飼育下)とされています。

キリンの一つ一つの行動は、知れば知るほど興味深いです

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キリンの行動は、一つひとつを知ることで、より立体的に見えてきます。単なる動きとして眺めていたものが、意味を持った営みとして理解されるようになります。

酒席でこうした話題を共有すると、相手の反応はさまざまです。戸惑いながらも興味を示す人、意外な知識を返してくる人、そこから別の動物の話へと広がることもあります。話題の選び方ひとつで、会話の質は大きく変わるものだと感じます。

キリンも、日本酒も、表面だけでは分からない奥行きを持っています。少し踏み込んで知ることで、その対象はぐっと身近なものになります。盃を手にした時間の中で、そうした理解が深まっていくのも、一つの楽しみです。

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