なぜ人は酒を飲むのか ~脳と文化から考えるアルコール~

お酒 と 文化

人はなぜ酒を飲むのでしょうか?
このブログを書き始めてからときどき疑問に感じています

「美味しいから」「楽しいから」「ストレス解消」というpositiveな理由
「付き合いだから」「眠れないから」というnegativeな理由
理由はいろいろあります・・・

日本人の研究 [Imada, 2017] では
社交的な人は、人とお酒を飲んで幸福になりやすい
ストレス解消に飲む人は依存症になりやすい と推測されています

それでも人類は数千年にわたり酒を作り、飲んできました。
そこには脳の働きと文化の歴史、そして進化の背景が関係しているように思っています

アルコールと脳の「報酬系」

人の脳には「報酬系」と呼ばれる神経回路があります。

これは、食事、社会的交流、成功体験など、生存や社会生活に関わる行動の際に活性化します。
この回路ではドーパミンという神経伝達物質が放出されます。

アルコールはこの報酬系を刺激します。飲酒によって幸せを感じるのは報酬系が活性化するためです。その結果、気分の高揚、緊張の低下、社会的抑制の緩和といった変化が起こります。

またアルコールはGABA受容体系にも促通作用し、不安や緊張を抑える方向に働きます。
この作用が、飲酒の動機の一部になっていると考えられています。
ヒトに天敵がいた時代には、夜眠るときの不安抑制に活躍したのかもしれません(想像です)

人類と酒 ― 古い関係

発酵飲料の痕跡は、約7000〜9000年前の遺跡から見つかっています。

中国の新石器時代の遺跡では、米、蜂蜜、果実を発酵させた酒の痕跡が報告されています。
人類は農耕文明の初期から酒を作っていた可能性があります。

酒は

  • 保存性
  • 栄養利用
  • 社会的儀礼

といった役割を持っていたと考えられます。

日本では古くから酒が作られていました。
神事では神酒が供えられ、祭礼や儀礼の場で用いられていました。
👉 日本におけるお酒の始まり(日本酒の歴史)

江戸時代の酒の消費

江戸時代にはすでに酒は広く流通していました。
特に江戸は人口が多く、酒の消費量も多かった都市です。

当時の統計から推定すると、江戸の成人男性の年間消費量は
現在の日本人の平均より多かった可能性があります。

ただし階級によってお酒との関係は異なっていました。

武士

武士は俸禄生活でした。
宴席や儀礼で酒が用いられることが多く、公式行事での飲酒の機会がありました。

町人(商人・職人)

町人層では居酒屋文化が発達しました。
仕事の後に酒を飲む習慣が広まり、江戸の飲食文化の一部となりました。現代の日本の大多数と類似していますが、今の日本人の多くが町民だからなのかもしれません。

農民

農村では酒は日常飲料というより、
祭礼や農作業の節目に飲まれることが多かったようです。
自家醸造も行われていましたが、幕府による規制もありました。

このように、江戸時代の酒は階級ごとに役割・習慣が異なっていたと考えられます。時代劇をよく観ますが、お酒を飲む理由は近代と大きな違いはない印象です。

日本人と酒 ― 近代以降

現在のように日常的に酒を飲む習慣が広がったのは比較的新しい時代です。

明治時代以降、政府は酒税を主要財源としました。
酒造業は国家経済の重要な産業となります。

都市化とともに労働者が増え、仕事の後に酒場で飲む習慣が広がりました。税収増加のためにお酒の役割は小さくなかったようです。

第二次世界大戦後には、居酒屋、宴会、接待などの飲酒文化が定着しました。

アルコール消費と経済状況

アルコール消費量は経済状況と一定の関係を示すことがあります。

現代の疫学研究では、
景気が低迷する時期にアルコール消費が増える傾向が報告されています

失業や社会的不安が増えると、ストレス、不安、社会的孤立などが飲酒行動に影響すると考えられています。

一方、好景気の時期には消費が分散し、
アルコール消費量が相対的に減少することもあります。

ただし国や文化によって傾向は異なります。イスラム教のようにお酒を飲まない文化もあります。

戦争とアルコール消費

戦争期のアルコール消費は把握が難しい面があります。
物資統制や配給制度が影響するためです。

日本では第二次世界大戦中、米不足のため日本酒の生産量は減少しました。
代替として

  • 合成酒
  • 醸造アルコール添加酒

などが増えました。

兵士の士気維持や軍需のために酒が配給された例もあります。
一方、一般市民の酒の入手は難しくなりました。
戦時期の飲酒は、統制、物資不足、社会状況によって変化します。

醸造アルコール添加についてはこちら
👉 醸造アルコール導入の歴史

「酔い」の進化仮説

人がアルコールに惹かれる理由を説明する仮説として
酔った果実仮説(drunken monkey hypothesis)があります。

熟した果実は自然発酵により少量のアルコールを含むことがあります。

果実を主食としていた霊長類は
こうした発酵果実を摂取していた可能性があります。

アルコールはエネルギー密度が高く、
熟した果実の存在を示す化学的指標にもなります。

このため

  • アルコールの匂いを好む
  • 少量のアルコールに耐える

といった特性のある個体が生き残り、進化の過程でこの特性が残った可能性があります。

「酔う」ことの社会的意味

飲酒には社会的な役割もあります。

例えば、緊張の緩和、仲間意識の形成、会話の促進などといった作用です。

祭礼や宴会で酒が用いられるのも、
こうした社会的機能と関係しています。

一方で、依存、健康障害、事故などの問題もあります。

酒は社会をつなぐ役割を持つ一方で、
扱いを誤ると問題を生む存在でもあります。

酒という文化

人類は長い歴史の中で酒を作り続けてきました。

酒は単なるアルコールではなく、
社会や文化の中で意味を持つ飲み物です。

誰と飲むのか。
どの料理と合わせるのか。
どの場面で飲むのか。

同じ酒でも状況によって意味は変わります。

酒とは、脳の報酬系に作用する飲み物であると同時に、
人間社会の文化の一部なのかもしれません。

参考文献
Imada. Studies Humanities Sci 2017.

「日本酒、純米酒、美味しいお酒」はこちら

ヒトがアルコールの飲みたくなる理由・原因を綴ってみました。でも、上記のどれを拡大解釈しても、飲み過ぎること、毎日飲むことの前向きな理由にはなりません。適度な量をときどき飲んで楽しむことがお酒との一番の良い付き合い方なのだと思っています。

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