キリンは大型動物で身長は4m以上になりますし、首の長さは2m以上と長いです。しかしながら、胴の長さは2m以内で高さに比べるとかなり短いです。なぜ、このような体格になったのかを考えました。
一般的に動物の体型は、食べ物の取り方・捕食者から逃げる能力・体を支える骨格構造など、複数の要因のバランスによって決まります。キリンの体型も、単に「首が長い」という特徴だけではなく、全身の構造として合理的に成り立っていると考えられます。
胴長が短いメリット
身長が高い、頭の位置が高いことのメリットは、高い位置の葉を食べることができるなど、いくつかのメリットがありますが、胴長が短いことのメリットはあるのでしょうか?
家を建てるときの柱と梁の関係を想像してみてください。
柱と柱の上に梁が載ります。梁など上に載る重量が2倍になったら、柱の強度は2倍必要です。しかしながら、柱と柱の距離が2倍になったら、梁の強度は2倍よりもかなり強い強度が必要になります。柱の間隔が広がると梁の太さが間隔の広がり比較してその比率以上に太くなります。
動物の胴体と足も同じように考えられます。骨の強さは、大型動物も小型動物も極端には違いはありません [Aerssens, 1998]。つまり胴の長さが長いと、ゾウやサイのように極端に太い胴体が必要になります。
そうなると足の太さも太くなり、動きが遅い構造になってしまいデメリットが大きくなります。そんなわけでキリンの胴長は足を動かす筋肉、長い首のバランスを取るのに不便でない程度になるべく短くなったと考えられます。
つまりキリンの体は、「高い場所に届く長い首」と「速く走れる体型」の折衷案とも言える構造です。胴体が長すぎると体重が増え、俊敏性が落ちてしまいます。捕食者であるライオンなどから逃げるためには、長い脚と比較的軽い胴体の組み合わせが有利だったと考えられます。
末梢神経の伝導速度はヒトと同じ
キリンの末梢神経の伝導速度を計測した研究があります [More, 2013]。末梢神経の中には、いくつかの種類があり、大径の有髄神経線維の伝導速度が最も速いです。キリンの大径線維の伝導速度は30-80m/sで、これはほぼヒトとほぼ同じです。小さなラットともほぼ同じです [More, 2010]。
神経の伝導時間が同じということは、痛みなどへの反応時間が身長が高い分(距離が長い分)遅いということになります。例えば、足先にツンという刺激がされた場合に、ラットでは足先から脳までの距離5 cmの往復で 0.002秒 +αで反応できますが、キリンの場合は5 mの往復で 0.2秒 +αの時間がかかってしまいます。「α」は“脳の中の判断時間”や“末梢神経と筋の接合部”の伝達時間の合計です。
このように神経の伝導速度自体は動物の大きさによって大きく変わらないため、体が大きくなるほど「情報が脳まで届く時間」は長くなります。これは大型動物に共通する特徴で、ゾウやキリンのような巨大な動物では、神経系の制御にも独特の制約があると考えられています。
ネズミの足をツンとしたときにパッと逃げる反面、キリンの足にライオンが嚙みついたときの反応がなんとなく遅いような気がしたのは気のせいではなかったようです。
動物の体格は進化の過程
動物の体格は、生き延びるために長い年月をかけて、少しずつ変化しています [馬場, 1995]。
キリンは、(諸説ありますが)高い位置の葉を食べるために身長を伸ばし、速く走るために胴体を短くした可能性が高いです。動物と比較してヒトが特徴的な部分は進化の過程でなにかの意味があることが多いです。その意味を考えることはヒトの進化の謎を紐解くようでとても興味深いです!
👉 キリンの身長の考察はこちら「キリンの身長 ~キリンとヒトの成長速度~」
文献
Aerssens J, et al. Interspecies differences in bone composition, density, and quality: potential implications for in vivo bone research. Endocrinology 1998,139,663-670
More HL, et al. Sensorimotor responsiveness and resolution in the giraffe. J Exp Biol 2013,216,1003-1011
More HL, et al. Scaling of sensorimotor control in terrestrial mammals. Proc Biol Sci 2010, 277, 3563-3568.
馬場悠男. 動物の体型と歩行様式. バイオメカニズム学会. 1995,19,158-162
こうした動物の体の仕組みを知ると、普段見ている世界も少し違って見えてきます。例えば、動物園でキリンを眺めながら一杯の酒を傾けていると(なかなか想像が難しい状況ですが・・・)、「あの長い首の中を神経信号がどれくらいの時間で走っているのだろうか」といった、少し理屈っぽい想像も浮かんできます。
日本酒の席では、発酵や旨味、アミノ酸の話題から生物の話に広がることも珍しくありません。盃をきっかけに、文化や自然科学への思索がゆるやかに広がっていく・・・、そんな時間もまた、お酒の楽しみなのかもしれません。
※お酒は20歳になってから。適量を守って楽しみましょう。

